東京高等裁判所 平成2年(行コ)150号 判決
右当事者間の不当労働行為救済命令取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、中労委昭和六〇年(不再)第四七号事件及び中労委昭和六一年(不再)第二四号事件について、昭和六二年一一月四日付けでなした不当労働行為救済命令を取り消す。
3 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は、第一、二審とも被控訴人及び補助参加人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二事案の概要及び証拠関係
当事者の主張は、次のとおり控訴人の当審での主張を付加するほか、原判決「事案の概要」欄(更正決定も含む。)に記載のとおりであり(ただし、別紙一の初審命令五九年(不)第一一号の二事件、六〇年(不)第六号事件の主文2の「副執行委員長安岡豊」を「副執行委員長兼書記長安岡豊」に改める。)、証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。
(控訴人)
一 本件人事異動について
1 村井の異動について
控訴人の職制規程、職務権限規定、就業規則等の諸規定上の各役職の職務権限は、原判決指摘のとおりであるが、控訴人程度の中小企業では、官公署あるいは大企業とは異なり、規定、規則等によって定められた範囲内で業務が行われるのはまれなことであり、企業の実態に応じて規定、規則等とは異なった形で実務が遂行されるのが現状である。形式的な規定等にこだわり、現実に行っていた職務内容についての検討を誤っている原判決には事実誤認がある。
また、管理部門会議の性格についても、社内会議規則上は「関係部門の検討機関であり、必要に応じて役員会上程の原案の作成を行うが、決裁権限を有するものではない。」となっているが、管理部門会議に出席し、控訴人の基本的人事や権利に関する資料に接し、これについて検討することは、ひっきょう控訴人の労働関係についての計画と方針に関する機密事項に接することであって、組合員としての誠意と責任とにてい触する結果になることは自明である。
したがって、村井が現に担当し遂行していた職務の実態から、主任の地位が組合員としての地位にてい触すると判断し、主任としての仕事をはずし、砂利協に関する仕事も差し止めたのは正当であり、村井に対する降格処分は相当である。
2 安岡の異動について
安岡は、営業部営業二課の主任として部内の人事や予算にかかわり、石油及び保険に関する業務では自らの判断で業務を行い、村井と同様管理部門会議の構成員となり、これらを通じて控訴人の経営全般に関する秘密を知り得る立場にあったから、安岡の営業二課における主任の地位と組合員との立場とは両立しないと判断し、安岡に対してした降格処分と配置転換処分は相当である。
3 金井の異動について
金井は、経理課主任補佐として、会議の内容が控訴人の機密事項に及ぶ債権打ち合わせ会議に出席し、短期資金の調達(資金繰り)にあたって控訴人の収支を知りうる等控訴人の労働関係についての計画と方針に関する機密に接し、そのため職務上の義務と責任とが組合員としての誠意と責任とに直接てい触する関係にあったから、金井に対して降格処分をしたことは正当である。
4 更に、原判決が認定した組合結成後の控訴人の組合に対する姿勢には事実誤認がある。
二 安岡に対する解雇について
1 原判決は、控訴人が組合を敵視し、不当労働行為をなしたとの事実を前提に、安岡に対する解雇の効力を判断しているが、原判決の右認定に誤りがあることは前記のとおりであり、控訴人に不当労働行為の意思はなかった。
2 控訴人が安岡に対してタイヤ修理工場への応援を求めたのは、わずか一か月という短い期限付きであった。
当時、タイヤ修理工場には常勤者が一人しかおらず、諸種の不都合を生じていたので、たまたま営業一課で営業の経験もあり、タイヤ修理工場において即戦力となる安岡を最適任者として、一か月間のいわゆるつなぎ要員としてタイヤ工場への応援(本件配置)を行ったものであり、不当労働行為とは全く無縁の人事である。
この程度の応援(一種の配置転換であるとしても、極めて短期間のものにすぎない。)を命ずることも不当視されることになれば、会社の秩序は保持できず、適切な人員配備で時の経済情勢を乗り切らなければならない中小企業にとっては、存続の危機にもつながるものである。
三 金井に対する救済命令について
金井は、退職時において、同人が控訴人に対して有するすべての請求権を放棄し、円満退職している。かかる場合、参加人組合には、金井に代わり控訴人に対する請求を維持する権限のないことは明白であり、原判決はこの点を看過し、事実認定を誤っている。
第三理由
当裁判所も、控訴人の請求はこれを失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり改めるほか、原判決「争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決七丁裏四行目の「職制規定」(本誌五七〇号<以下同じ>17頁1段16~17行目)を「職制規程」に、同八行目の「職務権限規程」(17頁1段22行目)を「職務権限規定」に改める。
二 原判決一二丁表二行目の「(三)」(18頁3段7行目)を「(四)」に改める。
三 原判決一五丁表四、五行目の「乙第三二八号証の四」(19頁3段2行目の(証拠略))の次に「、第三一九号証の三」を加え、同表一一行目の「おまえら」(19頁3段13行目)から同裏一行目の「何もいわん、」(19頁3段15行目)までを削り、同二行目の「四、」(19頁3段17行目の(証拠略))の次に「第三六四号証の四、」を加える。
四 原判決一七丁裏一行目の「以上によれば」(20頁1段26行目)を「以上のとおり、村井の企画管理部主任の名称や各種規定上の業務権限のみならず、同人が企画管理部主任として実際に担当、遂行していた業務の内容に照らせば、企画管理部主任の地位が、雇入・解雇・昇進又は異動に関して直接の権限をもつ監督的な地位であるとか、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためその職務上の業務と責任とが参加人組合の組合員としての誠意と責任とに直接てい触する監督的な地位であるとか、その他使用者の利益を代表する地位であるとか、いった参加人組合の組合員としての地位とてい触するものであるとは認めることはできず(村井が砂利協の会議等に出席し、砂利協に関する事務を担当していたこと、及び村井が管理部門会議の構成員であったことは、砂利協及び管理部門会議の性格、内容からして、組合員としての地位とてい触するものとは認められない。)、安岡の営業部営業二課の主任及び金井の経理課主任補佐の地位も、その名称や各種規定上の職務権限のみならず、その担当、遂行していた実際の職務の内容に照らせば、右主任及び主任補佐の地位が参加人組合の組合員としての地位とてい触するものであるとは認められないし、控訴人の参加人組合に対する態度もあわせ考えれば」に改める。
五 原判決一九丁表三行目の「昭和五八年」(20頁3段28行目)を「昭和五九年」に、同五行目の「同じ期間内」(20頁3段30行目)を「昭和五八年九月から昭和六〇年六月まで」に改める。
六 原判決一九丁裏八行目の「第三三三号証、」(20頁4段25行目の(証拠略))を削る。
七 原判決二〇丁表六、七行目の「第三六五号証の二、」(21頁1段10行目の(証拠略))を削る。
八 原判決二〇丁裏二、三行目の「配転命令が発せられたのであるが」(21頁1段23行目)の次に「(なお、同月二八日に交付された安岡に対してタイヤ工場への転換を命ずる旨の文書には、配転期間を同年三月一日から同月三一日までと記載されていたが、参加人組合が何度も「四月一日以降はどうなるか。」と尋ねても、控訴人側は明確な返事を避けた。)」を加える。
九 原判決二一丁裏九行目の「見当たらない。」(21頁3段14~15行目)の次に「控訴人は、安岡に対する配転命令は一か月という短期間であり、いわゆるつなぎ要員としてタイヤ工場への応援を行ったもので、不当労働行為とは全く無縁である旨主張するが、控訴人側は四月一日以降の安岡の配置について明言を避けていたこと、同日以降のタイヤ工場での実際の勤務者の配置状況に照らせば、安岡に対する配置命令が一か月という期間を区切ったつなぎ要員としての配置であったと認めることはできないし、仮に安岡に対する配転命令が一か月間という期間を区切ったものであったとしても、その業務上の必要性及び人選の合理性が認められないとする前記説示の判断を左右するものではない。」を加える。
一〇 原判決二二丁裏六行目の末尾(21頁4段19行目)に「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(証拠略)によると、金井は、同人にかかる本件初審命令が発せられた後である昭和六一年三月二五日、控訴人から退職金を受け取るに際し、「貴社とは一切の債権、債務がないことを確認して、ここに退職金を受領致しました。」と印刷された受領書に署名捺印したことが認められるが、他方、成立に争いのない(証拠略)によると、金井は、控訴人の本件再審査申立ての審理の段階において、参加人組合に対し、役職手当相当額等の請求の件については同組合に任せる旨申し出ていたことが認められるから、金井が右文言の印刷された受領書に署名捺印したことをもって直ちに、金井が、積極的に、本件救済命令により是認されるべき右役職手当相当額等についての権利利益までを放棄したもの又は労働組合の救済申立てを通じて右の権利利益の回復を図る意思のないことを表明したものと認めることは困難である。」を加える。
第四結論
以上の次第で、控訴人の請求を失当として棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 岩井俊 裁判官 小林正明)